
2021年11月6日(土)・7日(日)、愛媛県松山市で「子どもたちの第2のふるさとづくりモニターツアー」が開催されました。これは、関係人口の創出やSDGsの観点から、松山市の自然や文化などに触れ、子どもたちが成長し、「また帰ってきたくなる」旅を目指して企画されたもので、松山の魅力の情報発信も期待されています。
このツアープランは、SDGsオンラインフェスタ「第1回SDGs提案グランプリ」において、ANAホールディングス重点テーマ部門「SDGsに関連した目的や価値を持つ関係人口を増やすような団体旅行」のビヨンドグランプリ賞を獲得しました。
今回のモニターツアーに参加するのは、関東在住の11〜13歳の13名の子どもたち。中には、新型コロナウイルス感染症の影響により、修学旅行に行けなかった子もいます。

今回の旅の舞台となるのは、四国・愛媛県松山市。松山市は愛媛県の県庁所在地で、中心部では公共交通の利便性の高さを誇りながら、海や山など豊かな自然環境に囲まれたコンパクトな都市。日本最古の温泉とされる「道後温泉」や、「日本100名城」にも選出された「松山城」で知られます。そして、夏目漱石の『坊っちゃん』、司馬遼太郎の『坂の上の雲』などの小説でも描かれている街。著名な俳人 正岡子規が生まれた街でもあります。
令和2年には、SDGsを達成するため積極的に取り組む都市を内閣府が認定する「SDGs未来都市」および、その中で特に先進的な取り組みを実施する都市「自治体SDGsモデル事業」にも選定されています。豊かな観光資源を活用し、持続可能な「観光未来都市」を目指しています。

11月6日朝、松山空港に降り立った子どもたち。今回のツアーへの想いを聞いてみると「四国に行ってみたかった」という声が多く聞かれました。中には「SDGsについて学ぶために参加しました」というコメントも!
1日目の旅の舞台となるのは、松山市の沖約10kmに位置する「中島」。9つの有人島、多くの無人島から構成される忽那諸島の島の1つで、人口2,500人ほどの緑豊かな島です。みかんの栽培が盛んで、トライアスロンの開催地としても知られています。フェリーの移動中には、甲板から見える島々や、波の穏やかさに目を奪われる子どもたちの姿がありました。

中島ではまず「海岸清掃」を敢行!プラスチック、ペットボトル、燃えるゴミなどの担当に分かれ、ビニール袋とトングを持って海岸を歩きます。最初は、ちょっと面倒くさそうだった子どもたち。ゴミを拾っていくうちに、「また、これが落ちてた!」と、大量に流れついた牡蠣の養殖用パイプを見つけ、険しい表情を浮かべる子。「これは何のゴミ?何で海にあるの?」と、一つひとつのゴミのルーツに疑問を抱く子など……。子どもたちの表情や言葉に、発見や驚き、戸惑いが生まれてくるのを目の当たりにしました。

その後、地元の方に教わって海釣りを体験。ミミズのような見た目の生きた餌を見て、女の子たちは悲鳴…!何とか針に餌を付けてもらい、海へ向かって竿を降ります。みんな、表情は真剣そのもの。そんななか、地元の方にも「非常にレア」と言われる「カワハギ」が釣れました!釣り上げた男の子は、みんなに褒められ得意げです。その魚を宿の方に捌いてもらい、夜に開催されたBBQで味わいました。


その後も、自然エネルギーを活用したE-Bike(電気自転車)やグリーンスローモビリティー(最高時速20km/h未満の公道を走ることができる小型電気自動車)に乗り、900年の歴史を持つ「長隆寺」を尋ねたり、夜は新鮮な海の幸を豪快にBBQし、花火やキャンプファイヤーを楽しんだり…盛りだくさんな1日を過ごしました。
翌7日は中島を離れ、松山市の三津浜地区を散策。三津浜地区は、かつて漁業や商業で栄えた港町で、現在も松山市の海の拠点として位置づけられています。戦争で被災しなかったことで、時代の流れを感じられる近代的建築物や、風情のある街並みが今も残る貴重なエリア。現在は、これらを活用してまちににぎわいを取り戻そうとするプロジェクトが進んでおり、築約100年の医院をリノベーションし、物販店、アトリエ、ワークショップスペースなど多くのテナントで賑わう建物などがあります。

地元のガイドさんに連れられ、三津浜のまちを歩きます。レトロな雰囲気の街並み、街路樹、民家の壁に書かれたアート作品などなど…三津浜の魅力を、スマホで写真におさめる姿が多く見られました。道中では、地元の小学生に人気の、雑貨や駄菓子のお店の店主と会話するなど、地元の人々との交流もありました。
また、三津浜港内 約80mの距離を結ぶ市営の渡船「三津の渡し」にも乗船。車や自転車のように、その地域の方々の日常の交通手段に「船」があることに、驚きの表情を浮かべていました。

最後は、愛媛県最大の観光地 道後温泉へ。実際にその手で源泉に触れることができたり、明治時代の蒸気機関車を復刻した「坊っちゃん列車」と写真を撮ったり、愛媛のお土産を選ぶなどして楽しみました。
2日間の日程を終えた子どもたちに、感想を聞いてみました。「SDGsを学びたい」と意気込みを語っていた女の子たちは「魚釣りを通して、”食品ロス”について考えた。これまでは、ご飯を残してしまうことが多かったが、これからはやめようと思った。」「海岸清掃で、プラゴミが多いことに驚いた。こういった清掃をすることは、環境問題にとっては少しのことかも知れないけれど、大切なことだと思った。」と話してくれました。
他にも、海岸清掃という実際の「体験」を通して、それぞれにゴミの種類や量、そしてこれらを放置することによる動物への影響まで考えたという声も。「日頃から、環境を大切にする取り組みをしたい」「もっとSDGsを意識して生活したい」「普段の生活でも、ゴミの分別をしっかりしようと思った」など、今回の学びを日常に生かしたい!という意気込みをたくさん語ってくれました。

そして、多くの子どもたちが「松山に、また来たい」と感じたようです。「海や山など、自分が住んでいる場所には無いものがたくさんあった。」「海が荒れているところを見たり、美味しい空気を吸ったり、普段はできない体験ができた。」など、五感を使って松山を楽しんだ様子。中には、「こんな綺麗な海がもう見られないと思うと、悲しい」という子も……。今回は1泊2日と短いツアーでしたが、13人の心の中には、しっかりと「松山」での経験が刻まれました。来年なのか、大人になってからなのかはわかりませんが、地元に戻っても、彼ら彼女らが「第二のふるさと」として松山を想ってくれることを願います。

「第1回SDGs提案グランプリ」の審査に携わった、ANAX株式会社(ツアー企画時はANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ所属)野島祐樹さん、そして今回のツアーを提案された、松山市総合政策部 高岡伸夫さんにお話をお聞きしました。
今回のようなツアーを開催することで、地域にどのような影響があると思われますか?
野島祐樹さん(ANAX株式会社):今回でいうと、松山市の関係人口を増やしていきたいと思っています。定義はさまざまですが、私は訪れることで初めて「関係人口」になると思っていて。だから、ちゃんと現地に降り立って、地域の課題を知る。地域と繋がることが、その入口になります。
今回のような取り組みを実施することで、将来、子どもたちが松山での体験を思い出し「家族旅行で松山に行こう」とか「ふるさと納税で松山を応援しよう」「拠点を松山に移そう」など、それぞれのスタイルで関わってくれたら…と思っています。
また、子どもたちが日常に戻ったあと、今回の旅で学んだことをもとに「豊かな社会」とは何なのか。それを実現するために、自分たちは何をすべきなのかを、見つめ直してほしいなと思います。
例えば、中島で美しい海や自然、新鮮な食べ物を堪能しましたが、一方でその海岸には多くのゴミが漂着しているのを目の当たりにしました。普段の生活では学べないことを体験し、子どもたちはそれをしっかり五感で感じてくれたようです。その経験を活かし、自然や文化について「こうやって、守っていきたい」「持続するには、こんな行動が必要だ」など、子どもたちが自身で考え、行動に移してほしい。もっと言えば、「将来、こんな仕事がしたい」「地域で、こんな活動がしたい」など、今回の経験から、自身の人生観につながるような考えが芽生えると、本当に嬉しいですね。

今回のツアーを、今後どう展開していきたいと考えられていますか?
高岡伸夫さん(松山市):今回のツアーは、SDGsの観点から美味しいもの、森の静けさ、空気のおいしさ、海のにおい、それらを子どもたち自身が肌で感じ、「大切なもの」が何なのかを、将来の自分たちのために見つけてくれたら。そして「松山市」を、人生を通して関わる場所にしてほしいなと思って提案したツアーです。
今回のモニターツアーを開催した後は、その効果を検証し、新たな取り組みとして検討しますが、例えば企業版ふるさと納税を活用し、持続可能な観光で誘客ができればすばらしいと思います。

今回は、SDGsをテーマにした取り組みでした。今後、どのような社会を目指しているのでしょうか?
野島祐樹さん(ANAX株式会社):我々「旅」を仕事にする立場で言うと、これまでの「旅行」には、一時的なものが多くありました。人気の場所に多くの人が集まり、観光する。でも、次の人気スポットができればそちらに人が流れ、かつての人気スポットは廃墟になってしまう…などの悪循環も起こっていましたよね。それは、サステナブルではないと思っています。
今後は、街に人が訪れ、その地域への思いが強くなるような体験をして、また戻ってくる。そうした持続的で無理のない「旅」が、当たり前の社会になってほしい、そこを目指しています。