国際線就航40周年特別企画
~進化の舞台裏を支えたキーパーソンに迫る~Vol.3
ANAグループは、おかげさまで2026年3月3日に国際線定期便就航40周年を迎えました。これを記念し、長きにわたり国際線の進化を牽引し、その歴史を支えてきた方々にインタビューを実施。
第3回となる今回は、入社から約50年にわたり「装備品整備」の道を歩んできたベテラン整備士3名にお話を伺いました。就航当時の苦労話から、今だから言える若手へのメッセージまで、たっぷりと語っていただきました。
今回お話を伺った皆さま
ANA整備センター 部品事業室 装備品整備部


棚町 和弘さん(1974年入社)
無線品目の整備に約50年携わってきた第一人者。長年の経験で培った高度な知見をもとに、現在は後輩の教育訓練を担い、現場の技術レベル向上と次世代の育成に尽力している。


堀田 正徳さん(1979年入社)
計器整備から自動試験装置(Automated Test Equipment=ATE)の保守・開発までを幅広く担当。技能と人格を兼ね備えた最高位の称号「グループマイスター(※)」を持ち、技術と信頼で現場を支え続けている。

(※)「グループマイスター」:卓越した技能だけでなく、人格面も含む総合的な評価により認定される最高位の称号で、まさに技術と信頼の象徴。


熊切 正行さん(1980年入社)
歴代のボーイング機からエアバス機まで、多岐にわたるシステムの装備品整備を歴任。操縦系統や飛行管理システムなど、機体の安全運航に直結する重要中枢を支え続けてきたエキスパート。
Q:皆さんが長年携わっている「装備品整備」とは、具体的にどのような仕事なのでしょうか?
熊切:一言で言えば、機体から取り卸された「不具合のある装備品(ユニット)」を現場(以下、ショップ)で完璧に直し切る仕事です。ATEと呼ばれるテスト装置に接続して原因を特定するのですが、不具合がすぐに発見できない場合は、熱を加えたり冷やしたり、上空の厳しい環境を再現することで不具合を見つけ出し、整備しています。機体で直接整備する整備士が卸してきたユニットを、私たちがショップで確実に修理して戻す、という流れですね。
棚町:私は入社以来、一貫して無線品目を担当しています。人間でいう「目や耳」にあたる部分で、高度を測るセンサーや衝突回避装置、気象レーダーなど、すべて電波を使う装置です。50年間、時代とともに扱う品目は進化しましたが、空の安全を支える役割は変わりません。
最近は後輩の育成もメインですが、専門的なことは学校では習わないので、まずははんだ付けなどの基本から教えています。やはり仕事自体を好きになってもらわないと上達しないので、どうすれば好きになってくれるかを常に考えながら向き合っています。

堀田:私も入社以来、装備品整備を担当してきました。最初はロッキードL-1011トライスター(以下、トライスター)の燃料計などのアナログな計器類から始まりましたが、ボーイング767導入時のデジタル化を機に、自社で自動試験装置を開発・保守する業務に長く携わってきました。無線関係以外の品目はほぼ全て経験し、現在はボーイング787の電気系統などもこの自動試験装置を使って整備しています。
Q:約50年という長いキャリアの中で、当時と今を比較して「違い」を感じる部分はありますか?
堀田:一番の違いは、装備品自体の信頼性が格段に上がったことですね。昔は修理待ちの計器が棚に山積みになっていた時代もありましたが、今は不具合で取り卸される頻度が本当に少なくなりました。整備士としては良いことなのですが、若手に技術を伝えるチャンスが月に1回あるかないかという状況なので、いかに経験を積ませるかという「教える側のもどかしさ」は今の時代ならではですね。
棚町:昔は今ほどマニュアルや設備が整っていなかったので、自分たちで工夫して、文字通り「手探り」で直していく面白さがありました。今はDX化や自動化が進んで、作業の効率も精度も飛躍的に上がりましたが、はんだ付けのような「人の手」による基本の大切さは、今も昔も変わらないと感じます。
熊切:職場の雰囲気も少しずつ変わってきましたね。働き方が多様になり、昔のような泥臭い交流は減ったかもしれませんが、それでも「全員で安全な飛行機を飛ばす」という根底にある意識は、今の若い世代にもしっかり受け継がれていると感じます。

Q:1986年の国際定期便就航当時、現場はどのような雰囲気でしたか?
棚町:当時は「他社さんに追いつけ追い越せ」というハングリー精神が凄かったですね。「和協の精神」という言葉が今よりも色濃く、全員が一つの目標に向かって突き進む活気に溢れていました。
堀田:私は国際線の就航でかなり忙しくなりました(笑)。当時、国際線で使うトライスターの慣性航法装置(※)は不具合が多く、信頼性の高い別の装置に載せ替える大きなプロジェクトがあったんです。今のように情報がすぐ手に入る時代ではなかったので、みんなで英文のマニュアルを必死に読み合わせ、仕事が終わった後も勉強会を開いて必死にレベルを上げていたのを覚えています。
熊切:職場の雰囲気は「いよいよ世界へ行けるんだ!」という高揚感がありましたね。仕事以外でも、当時は今以上にアットホームで、寮の仲間や職場の班で旅行に行ったり、クリスマスパーティーのために出し物を練習したり。家族のようなつながりが強かった時代でした。
※慣性航法装置(Inertial Navigation System=INS):外部からの電波に頼らず、機体内部のセンサーで位置や速度を計算して飛行する装置。


(左から)1979年出来立ての伊丹空港のハンガー、L-1011の機体前で整列する整備士
Q:当時、苦労されたことはどんなことでしたか?
棚町:国際線が始まると機体の稼働率がぐんと上がりますが、当時は予備パーツが今ほど潤沢ではありませんでした。いかに早く確実に直して機体に戻すかが勝負。特にトライスターの自動着陸装置はデリケートで、原因はこれだ!と突き止めるまで、現場とショップを何度も往復して検証を重ねたのは苦労しましたね。
堀田:先ほどの慣性航法装置の載せ替えもそうですが、当時は不具合が起きても今ほどデータが揃っていませんでした。現場から上がってくる限られた情報をもとに、「何が起きているのか」を自分たちの頭で考え、一つひとつ潰していく。正解がない中で最適解を探す苦労はありました。
熊切:私はやはり「2000年問題」の実証実験です。不具合が起きないか、大晦日の深夜までエアバス320の実機にこもって検証を繰り返しました。プレッシャーもありましたが、無事に新年を迎えて飛行機が通常通り飛んだ時は、大きな安堵感がありましたね。
Q:仕事以外で、当時のANAグループの「親しみやすさ」を感じるエピソードはありますか?
熊切:昔は本当にアットホームでした。寮の仲間や班でよく旅行に行きましたし、レクリエーションも盛んでしたね。クリスマスパーティーの出し物のために、当時の霞ヶ関本社で夜な夜なダンスの練習をしたのは良い思い出です。役職に関わらず、みんなで全力で遊ぶ。その「遊び心」が仕事のチームワークにもつながっていた気がします。
棚町:たしかに当時は今よりずっと「家族」に近い距離感でした。仕事で厳しい局面があっても、そういうオフの場でのつながりがあったから乗り越えられた部分は大きいと思います。
堀田:困っている仲間がいたら、自分の担当外でも自然と手が伸びる。そんな「お節介なほどの優しさ」も、昔から変わらないANAの社風ですよね。

Q:技術者として、特に「こだわってきたこと」は何ですか?
堀田:私は現場の仲間から「こんな道具が欲しい」と言われたら、自作してでも応えることにこだわってきました。自分が作った試験装置やプログラムで不具合が解消され、仲間から「助かったよ」と言われるのが一番のやりがいです。効率だけでなく、現場が本当に使いやすいものを作ることが安全に直結すると信じています。

棚町:「改修による信頼性の向上」です。先ほどのトライスターの話もそうですが、不具合を直すだけでなく、原因を絶つために冷却ファンを増設するといった「一歩踏み込んだ対策」を提案し、実際に故障が劇的に減った時は手応えを感じました。
熊切:私は「不具合をショップで出し切る」という執念でしょうか。どんなに再現性が難しい事象でも、「異常なし」で機体に戻さない。再現試験を何度も繰り返し、最後まで原因を追い求め続ける姿勢は、50年間ずっと大切にしてきました。
Q:これからのANAグループを支える後輩たちへ、メッセージをお願いします。
熊切:飛行機を1便飛ばすのは、パイロットや整備士など直接関わる社員だけではありません。全ての部署の社員が「自分たちが飛ばしているんだ」という意識を持ってほしい。全員の力が合わさって初めて、安全な運航が成り立つんです。
棚町:今はDXが進んで効率化されましたが、最後はやはり「チームワーク」です。ミスを個人の責任にせず、組織として対策を考え、仲間を信頼する。「和協の精神(チームスピリット)」こそがANAの宝です。これを大切に引き継いでいってほしいですね。
堀田:デジタル化された現代だからこそ、「現地現物」を忘れないでほしいです 。画面上のデータだけでなく、実際に物に触れ、「なぜこうなるのか」を追求する心を持ち続けていただきたいです。本質は常に、現場にあります。

ANAグループはこれからも、お客様への深い感謝とともに、40年の歴史と信頼を礎に、安全・安心を第一に、国際線を通じて世界と日本を力強く結び続けます。
次回の国際線就航40周年記念インタビューも、どうぞお楽しみに!
▼ぜひこちらもご覧ください。
Vol.1
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