未来の翼が生まれる場所へ
~フロリダの空で見た、ANAのDNA~
「同じパイロット訓練生として、遥か遠いフロリダの地で訓練に励む仲間たちの姿を、この目で見たい。」
ANAライセンサーパイロット訓練生の池田です。今回、自社養成パイロット訓練生が学ぶ、アメリカ・フロリダ州サンフォードの訓練所「Acron Aviation」の取材に立ち会いました。同じ志を持つ仲間たちが、どんな環境で、何を想い、大空を目指しているのか。期待に胸を膨らませながら、現地で取材した様子をご紹介します。

※パイロット訓練生としてANAに入社する際、自社養成パイロット訓練生とライセンサーパイロット訓練生に分かれて入社します。自社養成パイロット訓練生は基礎訓練(小型機を使用し、事業用操縦士と計器飛行証明という免許を取得する訓練)を含めたすべての訓練を、入社した後に自社で行う訓練生。一方でライセンサーパイロット訓練生は私立大学や航空大学校などの施設で基礎訓練の過程を終え、入社するパイロット訓練生のことです。基礎訓練を終えてそれらの免許を取った後は副操縦士任用訓練に投入され、エアラインパイロットとして大型の飛行機を飛ばすための免許を取得します。
世界レベルの訓練環境



フロリダの地に降り立つと、まずその空の広さと訓練環境のスケールに圧倒されました。4本もの滑走路を持つサンフォード国際空港は、訓練生の小型機だけでなく、多くの旅客機も行き交う活気あふれる場所。ひっきりなしに飛び交う航空機と、管制官との英語での交信が響く中での訓練は、常に高い状況認識能力が求められます。
「ここでは日々、多くの訓練を効率的に実施しています。その分、常に多くの航空機が飛行している中で訓練を行うことになるため、新人にとっては非常にチャレンジングな環境です。」
そう語られたのは、ボーイング777型機機長で、現在は現地教官を務める恩田さんです。
フロリダの安定した天候、訓練空域の自由度、充実した訓練機材など、効率的に訓練を行うための素晴らしい環境が、そこにはありました。

また、訓練所には印象的な文化がありました。ファーストソロ(初めての単独飛行)や試験に合格した訓練生が「鐘」を鳴らすと、周りにいる人たちから自然と拍手が起こるのです。国籍に関係なく、仲間の達成を認め合い、祝福する。そうした温かい雰囲気が、厳しい訓練の励みになっているのだろうと感じました。

さらに訓練生たちが暮らす寮は、ジムなども完備されており、非常に充実した環境でした。厳しい訓練に臨むためには、心身を休める時間も欠かせません。まさにONとOFFの切り替えを大切にするという考え方がこの快適な生活環境にも表れており、訓練生が100%訓練に集中できる体制が整っているのだと実感しました。
ベテラン教官が語る「ANAらしさ」とは

今回の取材で、お話を聞いた恩田教官は穏やかながらも、その言葉の端々からパイロット育成への情熱が伝わってきます。
特に印象的だったのは、「どんなパイロットになって欲しいか」という問いに対する答えでした。
「コックピットの中では、安全なフライトをするために日々努力し、定期的に審査され続けます。常に高いレベルでのパフォーマンスが求められ、緊張感が伴う仕事です。でも、そんな厳しい環境下でこそ、どれだけお客様に対して配慮ができるか、その余裕を持てるかが大切なんです。」
技術を磨くだけではない。常にその先にいるお客様を想う。これこそが、パイロット訓練生たちが目指すべき「ANAらしいパイロット」の姿なのだと、胸に深く刻まれました。
また、訓練カリキュラムの話では、驚きの事実も。ここでは、なんと平均11回目のフライトでファーストソロに出るというのです。私がライセンスを取った際、約20回ほどの訓練を経てからソロに出ていたことを考えると、そのスピードは驚異的です。
「もちろん、すぐにはできない訓練生もいます。でも、仲間との情報共有や教官のサポートで、集団としてレベルアップしていく。ANAの訓練生は準備を怠らないと、現地の教官からも評判なんですよ。」
厳しい課題を、個人の力だけでなくチームで乗り越えていく。これもまた、ANAが大切にしてきた文化なのだと実感しました。
「準備に始まり、準備に終わる」 心に響いた言葉

取材中には、日本から激励のため来訪していたフライトオペレーションセンター土田副センター長と訓練生たちとのタウンミーティングもオブザーブしました。
「緊張した環境下で、多くの審査を乗り越えられてきた土田機長はどのように実力を発揮してこられましたか?」
訓練生からの率直な質問に、自身も自社養成パイロットとして入社し長年パイロットとして乗務した土田さんがかつての経験を交えて熱く語りかけます。
「審査で実力を発揮できないのは準備不足。普段の訓練から自分の実力、つまり持ち点を120点まで高めておくことが大切。そうすることで、本番で心の余裕を持ち、確実に合格できるレベルを目指しましょう。」
私もそうでしたが、大事な審査に限って想定外のことが起きるケースがあります。
「何が起こるかわからない中で柔軟に対応できるかどうかが一番大切です。」
土田さんの言葉にあるように、徹底した準備が柔軟な対応につながることを改めて認識しました。
さらに、理想の運航乗務員像として土田さんは2つの理想像を挙げました。
一つ目は、バランスの良い運航乗務員。
「運航品質、コミュニケーションともにバランスが大切。1便ごとの運航品質だけでなく、1日の運航トータルで見ることで、ANA全体のバランスの良い品質につながります。コミュニケーションも同様で、言うべきことはきちんと発言し、聞くべきことはきちんと耳を傾けて聴くことが重要です。」
二つ目は、説明責任を果たせる運航乗務員。
「なぜその判断をしたのか、自分の振る舞いを含めて、1から10まで説明できること。私たち運航乗務員には、大事なことを決める権限があります。だからこそ、その判断には常に説明責任が伴います。」
一つひとつの言葉が、訓練生である私たちの心に深く響きました。日々の地道な努力と徹底した準備から生まれる自信に裏打ちされた判断こそが、お客様の安心と信頼につながるのだと、改めて身が引き締まりました。
取材を終えて

今回の取材は、私にとって多くの学びと刺激に満ちたものでした。遠く離れたフロリダの地で、同じANAの翼を担う仲間たちが、素晴らしい環境と熱意ある指導者のもとで、懸命に訓練に励んでいる。その姿は、私の目にとても輝いて映りました。
訓練の進め方や環境は、私たちライセンサーと自社養成では異なります。しかし、目指す場所は同じ。安全かつ快適な空の旅をお客様にお届けする、ANAのパイロットになることです。
フロリダで受け取った熱いバトンを胸に、仲間とともに大空で働ける日を楽しみにして、私もこれから待つ訓練に真摯に取り組んでいきます。