Zen2.0
大地とのつながりを感じて宙(そら)に
念(おも)いを馳せる
鎌倉・建長寺を舞台に10月11日・12日の二日間にわたって開催された、禅とマインドフルネスの国際カンファレンス『Zen2.0(ゼンニーテンゼロ)』に、ANAは今年も共感サポーターとして参加しました。仏教の三宝と呼ばれる「仏・法・僧」にならい、「本来の自己に気づき」「自然の摂理から学び」「他者・社会と深く繋がる」という理念に賛同し、マインドフルなサービスや空間を提供するためのヒントを得ることも期待して、2017年のスタート時から企画や運営を含め、積極的に参画してきました。
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https://www.zen20.jp/
第8回目となる今回のテーマは「大地に坐す~Touching the Earth~」です。AIの想定以上の進化によりシンギュラリティの早期化もささやかれ、格差や分断の拡大が加速する懸念もあるなかで、私たちの子孫に美しい未来を残すためには、人類を含む地球全体が1つの有機的なシステムであり、それは「人」が根を下ろす「土」すなわち「大地」であるというメカニズムを、理解し体現することが重要だという想いが込められています。
宗教・哲学・心理学・医学・科学・教育・アートなどの第一人者たちが国内外から集結して、池泉庭園に臨む住職の居間にあたる方丈(龍王殿)では講演・対談を、同じ庭園に面した客間にあたる得月楼では体験型セッションを、森の中の法要施設である正統院では自然文化体験を提供してくれました。
元Google のエンジニアで同社にマインドフルネス実践プログラムを浸透させたことで有名なチャディー・メン・タンさんは、丸井のCEO青井氏との対談の中で、チームの全員を思いやり、その幸福を優先しながらビジネス目標を達成することに重点を置く「Compassionate Leadership」の要諦を、シンプルで科学的な言葉で伝授してくれました。
幸福学の第一人者で武蔵野大学ウェルビーイング学部長の前野隆司教授からは、シューマッハカレッジの学習プログラムの一つ「Deep Time Walk」が紹介され、地球の歴史46億年を4.6kmに見たてて、誕生以来起こったことを確認しながら歩いていくと、人類の歴史はゴール寸前のたった20cmしかないことを、頭の中だけではなく身体で体験ができる教育手法に感心しました。
臨済宗円覚寺派管長の横田南嶺老師(よこたなんれいろうし)は、江戸時代の禅僧鈴木正三(しょうさん)の教えを紐解きながら、仏になるためにいわゆる修行をすることと、与えられた職務をありのまま全うすることを同一視する考え方があると語られました。その際に、「寝てばかりいないでもっと時間を有効に使って習い事でもしたらどうか」と問われたスヌーピーが、「You're right, but being a dog Is a full-time job.」と答える漫画の一コマが引用され、横田老師の柔軟でウィットに富んだ発想に驚かされました。
一方、体験型セッションも他ではなかなか味わえない充実したメニューでした。臨床身体学研究者の小笠原和葉さんによる「しなやかに坐すためのボディーワーク」では、人間の身体の大半は水分でできているので、水の中に骨が浮いている感覚をもつことによって、自分の身体の中を水が移動していることを意識できることを体験しました。さらには、身体のメンテナンスにとても大事な呼吸を司る肺の大きさを意識するワークでは、実際には鎖骨のところから肋骨の下まで、またお腹側だけでなく背中側にも肺があるとわかり、デスクワーク中を最たる例として日頃いかに小さな呼吸しかしていないかを痛感しました。
また、Zen Eating 代表のMomoeさんによる「大地の恵みを感じるZen Eating」では、当日参加者全員に用意されていた精進料理のお弁当を使って、食材一つひとつに対して、におい・舌触り・噛み応え・味わい・のど越しなどをゆっくりと感じながら、これを調理し てくれた人・栽培してくれた人・育った土地・種子から実となるまでの成長過程などについて想いを巡らせるセッションでした。お弁当を食べるだけでこんなに豊かな気持ちになれることに驚くと同時に、普段は本当に味気ない食事の仕方をしているなと反省もしました。
書家の前田鎌利さんによる「念(おも)いを書で伝える」では、ネガティブにとらえられがちな「念」という言葉のイメージを覆しながら、「今、心にあること」をどう相手に伝えるかというワークに続いて、目の前で鎌利さんが「念ずれば華(はな)開く」と揮毫した大きな紙の余白部分に、参加者全員がいま心にあることを書いて終了しました。プレゼンの達人でもある鎌利さんならではの、論理的で説得力がある、人間味にもあふれるあたたかいセッションでした。
クロージングでは、二日間の体験によって得た各自の気づきや学びについて、登壇者と参加者が混然一体となった状態で共有しました。私たち一人ひとりが、大地のような広大で慈悲深い存在として、しっかりと地に根を張り、内なるリーダーシップを呼び覚ますことの大切さを確認したところで幕を閉じました。
ANA グループからも、マインドフルネスやウェルビーイングの考え方について、仕事面・プライベート面の双方で興味を持ったメンバーが参加しており、以下、皆さんからのコメントをご紹介します。
ANA 客室センター客室乗務一部 板橋 絵美さん
「ボランティアスタッフとして初参加しましたが、まずは「できることをやればいい」「できないことはみんなで支える」雰囲気に驚き、そして「自分らしく楽しもう」と臨んだ本番では、即席チームでお互いを補完しあいながら、手順やルールも柔軟に決めて行くという新鮮なやり方で、今後につながる貴重な体験ができました。スタッフまでマインドフルになれるイベントなので、当日見られなかった講演の録画を視聴するのが楽しみです。この経験を通じて見つけた新しい世界の扉を開けて、一歩踏み出せそうな自分にワクワクしています。」
ANA 新千歳空港(北海道エアポート出向中) 中瀬 文絵さん
「今回初めて参加しましたが、美しい自然に囲まれたお寺の優しい雰囲気の中で、世界各地からの参加者が解き放つさまざまな想いをすべて包み込むような空気に感動しました。最も印象に残った「食べる瞑想」では、目で見て触れた食べ物が、口から喉を通りお腹へいき、その栄養が脳に響いて心と繋がり、体に栄養が染み渡り細胞がふっくらするという、五感が研ぎ澄まされる不思議な体験をしました。大地の恵みが自分の頭・心・体と繋がり、そして大地と循環している感覚が持てたので、これからは感謝の気持ちで味わい続けたいと思います。」
ANA Cargo 上席執行役員 大河内 穣さん
「企画運営の一員として参画し数年経ちますが、今年は開催日程に平日を組み込むという点が初のチャレンジでした。この日にビジネス文脈のコンテンツを設定した工夫も功を奏し、登壇者である丸井の青井CEOを筆頭に、多くの名だたる企業でウェルビーイングや健康経営・マインドフルネスメソッドの浸透に取り組む企業人が多く参加され、繋がりが生まれたことが印象的でした。すでにGDWというモデルが先行していますが(https://well-being.nikkei.com/)、ようやく日本企業にも、こういったテーマを意思決定やリーダーシップに底通するコンテンツと位置付ける潮流が顕在化してきている点で、大きな転換点となった今回のZen2.0でした。」
ANA ホールディングス 未来創造室長 津田 佳明さん
「登壇者と参加者の垣根もなく一堂に会して坐して人間の深い部分について語り合う、なかなかレアな体験価値のイベントだとあらためて感じました。GDP成長率や人口拡大を前提とした資本主義のメカニズムが限界を迎える中では、次の社会システムを考えるためのマインドシフトとリーダーシップが必要で、今回のイベントがそのムーブメントを起こすきっかけになればうれしいです。期間中につながった参加者とまた語ってみます。」