西表島
環境と観光の両立への模索
2021年7月、世界自然遺産に登録された沖縄県・西表島。いまだに人が踏み入れたことのない地域が数多く残され日本最後の秘境とも言われています。イリオモテヤマネコやカンムリワシといった特別天然記念物が生息し貴重な生態系が残されている一方、その息吹を感じようと多くの観光客が押し寄せています。環境と観光をどう両立するのか島の模索を追いました。
羽田空港から南西へおよそ2,000キロ。およそ3時間半のフライトを経ると羽田から最も遠い国内線である石垣空港に到着します。さらに石垣島から船で西へ1時間近く揺られると西表島に到着します。面積は284.4キロ平方メートル。東京23区の半分程度の広さで沖縄では本島についで2番目に大きい島です。一方その90%近くをジャングルが覆っています。
島でガイドを務める仲良川観光の浦本陽介さん(竹富町観光ガイド免許番号 第075-001)に西表島の山中を案内してもらいました。鬱蒼とした森を進んでいくといくつもの小川が流れていました。川の中を覗くと、テナガエビ類国内最大種の「コンジンテナガエビ」がいました。国内最大級の蝶「オオゴマダラ」の大群にも出くわしました。さらに沢を登っていくと辿り着いたのは高さ10メートルほどの滝。多様な生態系を育む豊かな水が流れていました。
こうした多様な生態系や固有種の多さが評価され今年、西表島は沖縄本島北部や奄美とともに世界自然遺産に登録されました。
一方、自然を守るという課題にも直面しています。
島には野生生物の保護や調査研究拠点として環境省の野生生物保護センターが置かれています。近年、問題になっているのが固有種イリオモテヤマネコの交通事故です。事故は年々増え続け2021年は5件の事故が起き、すべてでヤマネコは死亡しています。人口2,400人の島に訪れる観光客は多い時で年40万人。環境と観光をどう両立するのか難しい課題が突きつけられています。
環境省西表自然保護官事務所 竹中康進 自然保護官
「こういう自然環境というのは非常に脆いものです。観光客の皆さんにはここは素晴らしい自然がある場所だと知ってもらい、自然に入る時には入らせてもらうという謙虚な気持ちで来てもらいたいと思います」
さらに悩ませているのが漂着ごみの問題です。西表島のビーチには台湾や中国など海外からのものを中心に多くの漂着ごみが流れついています。その94%はペットボトルや発泡スチロールなどのプラスチックゴミです。プラスチックは風化すると細かくなりマイクロプラスチック化し生物が食べてしまいます。昨年度回収されたゴミは123.8トン袋でした。観光客が回収を手伝うことも少なくないと言います。
西表島エコツーリズム協会 徳岡 春美 事務局長
「西表島が素敵なところだな自然環境ずっと見続けたいなと思ってくださったら、ビーチクリーンにも参加していただけると私たちもありがたいです。観光客のみなさんと一緒に島を守っていけるというふうになればと思います」
こうした中、島最大のホテル、星野リゾート西表島ホテルでは思い切った環境対策を始めました。日本初のエコツーリズムリゾートを目指し今年6月からは歯ブラシやくし、髭剃りなど使い捨てのアメニティの提供をやめました。さらに8月からはペットボトルの販売をやめ、使い回しのきくボトルを貸し出しそこに水やお湯、ジュースなどを入れられるサービスを始めました。利用者にはなるべく自らアメニティやボトルを持ってきてもらい、少しでもゴミを減らそうという試みです。
また島の自然に詳しいホテルのスタッフによる無料のネイチャーツアーも実施しています。ジャングルや汽水域をめぐり動植物について詳しく紹介します。島の生物多様性を知ってもらうことで、自然の大切さを学んでもらおうという狙いです。
星野リゾート 西表島ホテル細川 正孝 総支配人
「私たち、西表島という希少な自然を有している島でホテルの運営を行う事業者として、環境の負荷を低減させた上でホテルを運営したいと思っています。さらにこの島にお越しいただくお客様に環境の心配をなく過ごしてもらえるような取り組みを行っています」
ANAでも島の人たちと協力して環境対策を強化しようと考えています。
ANA 石垣八重山支店 宮脇 秀至 支店長
「ANAもお客様にたくさん飛行機に乗ってもらえれば良いということではなくてやはり責任ある観光をやっていきたい。島の自然は財産です。長期的な視点で生態系を守っていくことで末長く活動したいなと思っています」